新作狂言『パン咥え』
シテ 女(女子高生)
アド 男(イケメン転校生)
小アド 先生
女:これはいかなこと 遅刻遅刻 遅刻遅刻
女 台詞を言いながら入場 食パンを咥えている
このあたりの女子高生でござる
こんにった新学期でござるによって、急いで学校に参ろうと存ずる
いささか寝坊を致したによって、食パンを咥えて参ろう
遅刻遅刻
女 道行する
男 入場
男:このあたりのイケメンでござる
まず、そろりそろりと参ろう
男 道行するが女にぶつかり 双方転ぶ
女・男:あいた、あいた
男:そなたはどこを見ておりゃる
女:どこを見てとはこなたの台詞でござる
男:さてさて わわしい奴かな
女:何じゃわわしい? そなたこそサイテーな男よ
わらわは先へゆく さらばさらば
女 男と別れ 道行
女:さてもさても腹の立つことかな
新学期早々 波乱の幕開けにござる
いや、何かと言ううちに学校に着いた
まず席に座ろう
女 座る
先生 入場
先生:これはこの学校の先生でござる
こんにった皆に知らせがある
転校生が来るによって皆に紹介をする
申し転校生 これへ出よ
男 入場
男:このあたりのイケメン転校生でござる
女:や そなたは今朝方のサイテーな男ではござらぬか
男:や そなたは最前のわわしいおなごではないか
先生:なんじゃ 二人は見知った仲であるか それならばちょうどよい
そなたの隣の席が空いておる 転校生はそちへ座れ
女:これはいかなこと
男 女の隣に座る
男:今日よりよろしくお頼み申す
女 そっぽを向く
先生 退場
男:(独白)いや 休み時間になった ちと奴をからかってみよ
(女に)いやなうなう 身共からの挨拶代わりじゃ 接吻をいたそう
女:なんじゃ接吻!?
男:ここに壁がある ドン(擬音)
壁ドンの型をする
女:これは何とする
男:わわしい口じゃ
男が接吻しようとするが、女にビンタされる
女:やい そこな奴
おなごが皆 そなたのことを好むようになるものではない
男:(独白)さてもさても おもしろきおなごでござる
身共ほどのイケメンにときめかぬ
このようなおなごは ついに見たことがない
(女に)なう おもしろきおなご
そなたを召し抱えようと存ずる
今日からそなたは身共の召使いじゃ
女:おのれは何をぬかしおる
もはや堪忍ならぬ おのれのことなど知らぬわいやい
腹立ちや 腹立ちや
女 退場していく
男:いや申し おもしろきおなご
ちょっとお待ちゃれ
やるまいぞ やるまいぞ
男 退場していく